解体会社のM&Aで行うデューデリジェンス(DD)は、決算書と許可証の有無だけでは終わりません。工事ごとの契約・原価・廃棄物処理・石綿対応を照合し、資料の不足が価格、実行条件、引継ぎ後の負担にどう影響するかを確認します。
譲渡企業は既存資料の所在を整理し、買い手は確認したい事実と必要な証拠を対応させます。ここでは、産廃・石綿・重機を中心に、工事別採算、契約、労務までを一つの調査計画にまとめます。
DDを始める前に対象範囲を決める
対象法人、事業所、ヤード、許認可、工種、進行中の現場、買収対象資産を一覧にします。株式譲渡か事業譲渡かによって、法人に残る責任と別主体へ移すものが異なります。調査期間と基準日を決め、法務・財務・環境・労務の担当者が同じ現場番号を使えるようにします。
| 領域 | 主な資料 | 資料同士で確かめること |
|---|---|---|
| 許認可 | 許可証、登録証、変更届、資格者一覧 | 名義・業種・区域・期限と実際の工事・人員 |
| 産廃 | 処理委託契約、委託先許可証、マニフェスト、請求書 | 品目・数量・行先・処理費・最終処分確認 |
| 石綿 | 事前調査、資格証、行政報告、作業・届出記録 | 対象工事と調査・報告・施工の手順、処分先 |
| 重機・車両 | 固定資産台帳、実物、点検記録、リース・割賦契約 | 所有者、機体番号、残債、状態、更新費 |
| 工事採算 | 注文書、変更契約、工事台帳、請求・入金、外注請求 | 進捗、追加工事、未収金、完成までの原価 |
| 契約・労務 | 重要契約、給与・勤怠、雇用契約、安全教育、事故記録 | 承諾要否、現場配置、賃金債務、是正状況 |
産廃は許可証から処理完了までつなげる
許可品目・区域と実際の運用を照合する
収集運搬と処分、普通産廃と特別管理産廃、積替保管の有無を分けます。許可証の品目・区域・有効期間が、工事の排出場所、運搬先、処分方法と対応するかを確認します。建設工事に伴う廃棄物は元請業者が排出事業者として責任を負うのが基本です。下請との契約があるだけで、その責任を移せるわけではありません。
委託契約・マニフェスト・請求を工事番号で照合する
同じ工事について、処理委託契約と委託先許可証、搬出記録、マニフェスト、処分費の請求を結び付けます。未返送・未確認のもの、数量差、品目の記載差、想定外の処分先があれば、担当者の説明と根拠を残します。資料がない状態を「問題なし」とせず、追加調査と是正の要否を整理します。
混合廃棄物は内訳、分別方法、受入条件、再資源化先を確認します。処分場への依存が強い場合は、単価変更、受入制限、代替ルート、運搬距離による利益への影響も見ます。制度の基本は環境省の建設廃棄物処理指針と改正法Q&Aで確認できます。
事業を移す場合は許可と施設の手続を分ける
事業譲渡等で別の事業者が処理業を行う場合は、新規許可が必要となる取扱いがあります。買い手の既存許可の範囲や追加手続を所管庁に確認します。処理施設の譲受け等は別の手続であり、「産廃許可を持つ会社だから一式で承継可能」とは判断しません。処理業許可の通知と施設の譲受け等の案内を参照してください。
石綿は調査・資格・報告・作業を別々に確認する
石綿の事前調査義務と、調査結果を行政に報告する規模基準は別です。報告対象の規模に満たないことだけを理由に、事前調査が不要とは判断できません。報告対象の工事では、石綿が見つからなかった場合も結果報告が必要です。
| 段階 | 確認する証拠 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 事前調査 | 建物・工作物の情報、調査報告書、分析結果 | 図面だけで判断していないか、調査範囲が工事範囲を覆うか |
| 調査者 | 資格証、調査対象と担当者の対応表 | 建築物と工作物で、対象に適した資格か |
| 報告・説明 | 行政への報告控え、発注者への説明記録 | 工事規模と報告要否、報告内容と調査結果の一致 |
| 施工・処理 | 作業計画、該当届出、教育・保護具等の記録、処理記録 | 外注した範囲、監督体制、発見後の変更対応 |
報告対象には建築物の解体80㎡以上、建築物の改造・補修の請負金額税込100万円以上、対象工作物の解体・改修の請負金額税込100万円以上等があります。どの区分に該当するかと金額の計算方法は、環境省の事前調査結果報告の案内で確認します。
2026年1月1日以降着工の対象工作物では、資格者による調査の制度が適用されています。対象の種類により調査できる資格が異なるため、建築物の資格だけですべてを扱えるとは限りません。厚生労働省の石綿総合情報ポータルで対象と資格を照合してください。
届出の控えだけで安全・適法と断定せず、実際の施工、教育、保護具、外注管理、処分記録まで確認します。記録の保存期間は制度ごとに異なります。建設リサイクル法の届出や分別解体・再資源化の義務も、石綿の報告とは別に確認します。建設リサイクル法の概要が参考になります。
重機の価値と更新負担を実物で確かめる
固定資産台帳に載っている機械を現物と照合し、機体番号、所有者、使用拠点、稼働時間、修理・点検履歴を記録します。リースや割賦、担保設定があるものは、売買対象に含められる条件と残債を確認します。アタッチメントや車両もまとめずに識別します。
高額修理が近い機械、更新が必要な車両、特定オペレーターしか操作できない設備は、購入価格とは別に引継ぎ後の資金と人員に影響します。車両等と許可・届出資料の対応、ヤードの利用契約、保管設備の実態も確認します。
工事別の粗利と未成工事を確認する
月次試算表の売上・原価を、工事台帳と代表的な注文・請求・入金へたどります。外注費、処分費、運搬費、重機費を含めて採算を確認し、進行中の工事は完成までの原価と入金時期を見積もります。未成工事の評価方法と計上時期が継続しているかも確認します。
口頭で依頼された追加工事は、承諾・金額合意・請求の状況を分けます。争いのある追加請求を、確実に回収できる売上として扱わないようにします。処分単価の上昇や処分先変更を工事別に反映し、一過性の利益や損失を区別します。
契約・協力会社・人員を運営計画につなげる
主要元請けとの基本契約と個別注文、協力会社への外注契約、リース、賃貸借を確認します。譲渡制限や株主変更時の条項、現場ごとの同意、入札や継続受注への影響を整理します。外注班への依存は人数だけでなく、工種、繁忙期の確保、事故時の責任分担で把握します。
雇用契約、給与・勤怠、社会保険、安全教育、事故・行政指導の資料は、資格者一覧と現場配置表に結び付けます。社長や職長の退任が許可要件や安全体制に影響しないかを確認します。事業譲渡による労働契約移転には十分な説明・協議と個別承諾が必要です。厚生労働省の指針も参照してください。
見つかった課題を四つに分けて条件へ反映する
| 分類 | 例 | 決めること |
|---|---|---|
| 追加確認 | マニフェストや追加工事合意の資料不足 | 確認担当者、必要資料、回答期限 |
| 実行前の対応 | 必要許可・同意、人員要件の未充足 | 実行条件、対応の証拠、未了時の扱い |
| 価格・契約への反映 | 更新投資、未収金、既知の紛争や債務 | 価格調整、例外開示、補償範囲・期限等 |
| 引継ぎ後の管理 | 台帳の統合、教育・月次報告の改善 | 責任者、工程、予算、確認指標 |
重大な法令対応や事業継続の条件を、価格を下げれば済む問題に置き換えないようにします。金額だけでなく、実行前に対応できるか、取引方法や対象範囲を変える必要があるかを検討します。
資料を共有するときの注意点
初期検討では社名、現場名、元請け名、個人名を必要に応じて伏せた資料から始めます。個人データを含む詳細資料は、開示目的、相手、閲覧範囲、持出し、不成立時の返却・削除を定めます。NDAだけで無制限に開示できるわけではありません。個人情報保護委員会の通則編の事業承継に関する取扱いも確認します。
資料がそろっていない場合も、存在・所在・担当者・不足理由を一覧にすると調査を進めやすくなります。譲渡企業向け相談フォーム、買い手向け相談フォーム、料金体系はこちらです。保証と実行条件は代表者保証・借入・許認可の整理、全体像は解体M&Aガイドで確認できます。